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    2026.09.06 体験価値
    【コラム】「常連に支えられている」と思っていたら、常連のお客様のほうが冷めていました

    私たちは業績と関係ない数字を測っていたかもしれない

    前回の記事に、思いのほか多くの反応をいただきました。

    なかでも印象に残ったのが、全国に店舗を展開する食品チェーンの経営者の方からのご連絡でした。長く大手小売の経営に携わってこられた方です。指標と業績の関係については、私などよりずっと長く、ずっと真剣に向き合ってこられたはずの方から声をかけていただいたことに、正直、少し驚きました。

    その方のコメントは以下のような内容でした。
    『今朝の記事はとてもストンと腹落ちしました。 これまで客数を増やすために、様々な取り組みを行いました。NPSの「他人へのおすすめ度」は、本人の「また来たい」から少し外れたように感じていました。』

    考えてみれば、当然かもしれません。「顧客満足度は測っている。数字も悪くない。でも業績と結びついている実感がない」という状態は、規模の大小を問わず、多くの経営者が抱えているものだからです。

    そこで今回は、前回の記事で少しだけ触れた話を、もう少し深く扱います。同じチェーンのデータを新規のお客様と既存のお客様に分けたときに現れた、”54.8ポイントの断層”の話です。

    先に、この記事の芯を書いておきます。

    常連さんが大事

    多くの経営者が「うちは常連さんに支えられている」とおっしゃいます。私も、そういうものだと思っていました。

    ところが、全国90拠点のヘルスケアサービスチェーン(有効回答 約4,100件)のデータを新規と既存で分けて集計したところ、”既存のお客様のほうが、評価が低い”という結果が出ました。しかも、その差は50ポイントを超えていました。

    「常連に支えられている」という感覚は、少なくともこのデータでは裏付けられなかったのです。

    「常連さんに支えられている」という感覚

    まず、この言葉が生まれる背景を整理しておきます。

    多店舗のサービス業や小売業では、収益の大半が反復来店から生まれます。新規獲得には広告費がかかりますが、常連は自然に戻ってきてくれる。だから常連を大切にしよう——これは、経営の判断として何も間違っていません。

    実際、現場に立っていると、その感覚は強化されます。名前を覚えているお客様、いつもの注文をされるお客様、スタッフと言葉を交わすお客様。そういう方々の顔が、まず思い浮かびます。

    そして厄介なことに、その方々は”たいてい満足しておられます”。だから、常連=満足度が高い、という図式が出来上がる。

    ただし、常連の声は「聞こえてこない」

    ここに、構造的な落とし穴があります。

    アンケートに答えてくださるのは、関心の高い層です。初めて来て何かを感じた方か、熱心なファンか。そのどちらかに偏ります。

    では、静かに離れていく常連はどうでしょうか。

    その方々は、不満を言いません。クレームも入れません。ただ、来店の間隔が少しずつ空いて、ある日から来なくなる。そして、アンケートにも答えません。答えるほどの関心が、もう残っていないからです。

    つまり、”離れかけている常連ほど、データに残らない”。

    私たちは長いあいだ、この構造を「常連は満足しているからアンケートを出さない」と読み違えていました。沈黙を、満足と取り違えていたのです。

    これは、離職率という指標が抱えている問題とよく似ています。離職率が捉えているのは「出ていった人」だけで、いま残っている人がどう感じているかは分かりません。同じように、顧客アンケートが捉えているのは「答えてくれた人」だけです。答えなかった人の存在は、集計表のどこにも現れません。

    そして、答えなかった人のほうが、たいてい多いのです。

    図1|アンケートに現れない人たち

    90拠点で、新規と既存を分けて集計した

    そこで、実際に分けてみました。

    対象は前回と同じ、全国90拠点のヘルスケアサービスチェーン。有効回答 約4,100件を、初回利用の方と2回目以降の方に分類し、それぞれのNPSを算出しました。

    結果はこうです。

    新規のお客様:+51.8
    既存のお客様:−3.0

    差は”54.8ポイント”。

    図2|新規のお客様と、既存のお客様

    正直、最初に見たときは集計を疑いました。新規のほうが高いこと自体は珍しくありませんが、ここまで開くのは想定外でした。しかも既存側はマイナス圏です。推奨者より批判者のほうが多い状態で、そのお客様たちが「常連」と呼ばれていたことになります。

    念のため補足すると、NPSは推奨者の割合から批判者の割合を引いた数字です。0がちょうど拮抗している状態で、マイナスは批判者のほうが多いことを意味します。既存のお客様の−3.0は、辛うじて拮抗しているように見えて、実際には推奨者よりも批判者がわずかに上回っている状態でした。

    さらに気になったのが、同じ期間の売上でした。

    90拠点のうち、伸びた拠点は24、減った拠点は40。”63%が縮んでいました”。

    図3|入口は機能していたのに、全体は縮んでいた

    「入口は機能していたのに、全体は縮んでいた」

    この2つの数字を並べたとき、はじめて構造が見えました。

    新規のNPSが+51.8ということは、初めて来た方の体験は成功しています。集客も、初回の接遇も、悪くない。むしろ良い。

    にもかかわらず、6割強で売上が減っている。

    だとすれば、問題は入口ではありません。入ってきた人が、”続かない”のです。

    このチェーンで起きていたのは、集客の失敗ではなく、2回目以降の設計の不在でした。そして、それは全体平均を見ているかぎり、絶対に見えません。全社平均のNPSは、新規の高評価と既存の低評価が打ち消し合って、そこそこの数字に落ち着いてしまうからです。

    平均値は、しばしば断層を隠します。

    なぜ、2回目でつまずくのか

    分けて見えたあと、自由記述を読み直しました。既存のお客様が低い点をつけた理由には、いくつかの共通パターンがありました。

    ひとつは、”説明が一度きり”だったこと。初回は丁寧に説明されるのに、2回目以降は「もうご存じですよね」という感じで進む。お客様からすると、扱いが変わったように感じられます。

    もうひとつは、”担当が変わる”こと。初回に対応したスタッフと、次回のスタッフが違う。前回の内容が引き継がれておらず、また一から説明することになる。

    そして最も多かったのが、”何も起きていない”というものでした。悪いことは何もない。ただ、初回にあった特別な感じがなくなっただけ。

    言い方を変えれば、初回に用意されている体験が、2回目には用意されていないのです。多くの企業が、初回の体験設計にはコストをかけます。けれど2回目以降は、現場の裁量に委ねられている。

    離反は、事故ではなく設計の空白から起きていました。

    図4|2回目で、何が起きていたのか

    でも、常連を軽視していいという話ではありません

    ここも誤解されたくないので、はっきり書いておきます。

    この結果は「常連は当てにならないから新規獲得に注力すべきだ」という話ではありません。むしろ逆です。

    新規のNPSが+51.8ということは、”新しく来た方を満足させる力はすでにある”ということです。その力を持ちながら、2回目以降に発揮できていない。つまり、伸びしろは既存側にあります。

    新規獲得には広告費がかかります。一方、2回目の体験設計にかかるのは、多くの場合お金ではなく手間です。何を伝えるかを決め、引き継ぐ仕組みをつくり、現場に共有する。それだけで動く部分が、かなりあります。

    「常連に支えられている」という感覚は、正しかったのです。ただ、その常連が”いま何を感じているか”を、私たちは測っていなかった。それだけの話でした。

    このデータだと、ほかにもこんなことが見えている

    今回は新規と既存という切り口に絞りましたが、同じデータからは、ほかにも気になる数字が出ています。

    拠点間の131ポイント格差。 チェーン全体の平均の裏で、最も高い拠点が+81.3、最も低い拠点が−50.0でした。同じ看板、同じマニュアル、同じ研修を受けているはずの拠点間で、これだけ違う。平均点は、現場のどこにも存在していませんでした。

    スコアと売上のねじれ。 NPSと年間売上で4象限に分けると、両方高い「スター」は13拠点。両方低い「優先改善」が11拠点。そして残りは、”どちらか一方だけが高い”拠点でした。評価の高い店と、売れている店は、必ずしも同じではありません。ここは打ち手の優先順位に直結します。

    体験項目の高止まり。 空間9.02、接遇8.96、問診8.99、技術8.75。10点満点で見れば全項目が高評価です。それでも6割強の拠点が減収していました。高評価と業績は、自動的には連動しません。

    どれも、平均を分解してはじめて見えてくるものです。

    では、現場では何が変わるのか

    前回も書きましたが、指標を変えることの本当の価値は、点数が上がることではなく、”会議の問いが変わること”にあります。

    新規と既存を分けていないころ、会議の議題は「今月のスコアが下がった理由」でした。原因の候補が広すぎて、結局は「接客を丁寧に」に着地します。

    分けたあとは、こうなります。「初回の方の評価は保てているか」「2回目の方の評価はどこで落ちているか」「落ちているのは説明か、引き継ぎか、それとも何もしていないことか」。

    ここまで来ると、打ち手が個人の心がけではなく、オペレーションの設計に移ります。

    たとえば、2回目のお客様に何を伝えるかを決めておく。前回の内容を引き継ぐ手段を用意する。初回だけでなく2回目にも、意図的に何かを起こす。どれも、精神論ではなく仕組みの話です。

    持ち帰り用チェックリスト

    明日から確認できる形に整理します。

    まず、”新規と既存を分けて集計”してください。アンケートの冒頭に「本日が何回目のご利用ですか」という一問を足すだけで、翌月から分けられます。設問一行の追加なので、システム投資は要りません。

    次に、”2群の差を確認”してください。差が20ポイントを超えていたら、2回目以降の体験設計に手をつけるべきサインです。参考値として、今回のデータでは54.8ポイントでした。

    そして、”既存客の沈黙を満足と読み替えない”でください。回答が返ってこない層こそ、離れかけている可能性があります。回答者だけを見ていると、その存在自体に気づけません。

    最後に、”2回目に何が起きるかを言語化”してください。初回の体験設計は多くの企業が持っています。2回目の設計を持っている企業は、驚くほど少ないのが実感です。

    ――――

    「常連に支えられている」というのは、経営者の実感として正しいのだと思います。実際、収益はそこから生まれています。

    ただ、支えてくれている方々が”いま何を感じているか”は、分けて測らなければ分かりません。そして、分けずに見ているかぎり、その方々が静かに離れていく音は、決して聞こえてこないのです。

    ――――

    次回は、この記事で触れた「拠点間の131ポイント格差」を扱う予定です。同じ看板を掲げながら、なぜこれほど差がつくのか。そして、全社平均というものが現場のどこにも存在しないという話です。

    ――――

    自社で試してみたい方へ

    前回の記事でご好評をいただいた資料を、引き続きご用意しています。

    ① 再来意欲 設問テンプレート(無料・PDF/全7ページ) 本記事の「本日が何回目のご利用ですか」を含む必須設問3問と、業種別の推奨設問を収録しています。治療院・クリニック/小売・スーパー/飲食・宿泊/BtoBサービスの4パターン。新規と既存を分ける集計手順も5ステップで整理してあります。 → ダウンロードはこちら(メールアドレスのみでお受け取りいただけます)

    ② CX-EX 現状診断(無料・オンライン30分) 「いま測っている指標が、自社の収益構造に合っているか」を一緒に確認する時間です。すでにアンケートを実施されている場合は、その設問票をお持ちいただければ、どこがずれているかをその場でお伝えします。売り込みの時間にはしませんので、その点はご安心ください。 → 日程調整はこちら

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