2017.06.13
ロイヤルティ
AIチャットボット導入で失敗しないための注意点とは? ~コールセンター/CRM デモ&コンファレンス2017 in 大阪 パネルディスカッションレポート
こんにちは。トータルエンゲージメントグループ パートナーコンサルタントの渡部です。2017年6月1日にコールセンター/CRM デモ&コンファレンス2017 in 大阪にて5年後のコンタクトセンター研究会中間報告会でのカスタマーエクスペリエンス分科会のセミナーに登壇しました。
私は本研究会でのリーダーを担当しており、毎年この時期には大阪で登壇しておりますが、今回はビジネスの現場で活躍されている方2名をお招きしてパネルディスカッションを実施し、私はモデレーターとして参加させていただきました。
非常に興味ある知見を得られたパネルディスカッションになりましたので、本ブログでも紹介させていただきます。
目次
ロイヤル顧客とのパートナーシップを築く 「オムニチャネル体験」の実践と効果
<パネルディスカッション概要>
カスタマー・エクスペリエンスで重要となるのが、オムニチャネル対応です。しかし、単に顧客接点・問い合わせチャネルの選択肢を増やすだけでは、ロイヤルティは強化できません。各チャネルごとにポイントを押さえ、最適な運用をすることで、はじめて顧客のロイヤルティを強化できます。昨年から導入企業が急増しているチャットとAIにフォーカスし、導入のポイントや運用の注意点などについて議論・解説しました。
<パネラー>
ヤフー CS本部 本部企画部 トレーニングマネージャー 寺下 薫 氏
ネスレ マーケティング&コミュニケーションズ本部 コンシューマーリレーションズ部 部長 野崎 善教 氏
左:ネスレ 野崎氏、右:寺下氏
モデレーター:渡部
満員御礼の会場
以下議題に沿ってパネラーの方の発表の骨子、ディスカッションからの考察を記載します。
1. オムニチャネルの現状 ~ノンボイスチャネルの適用~
<渡部(研究会知見)>
●コンタクトセンターのオムニチャネル化はメール以外はまだ浸透度合いが低いがチャットの関しては2016年で11.7%だが、今年ブレークして大幅に増えるだろう。
●電話での問い合わせを敬遠するお客様が増える中で、チャネル特性とコールリーズン等の充実したい内容を考慮したオムニチャネル戦略の立案が重要となってくる。
<ネスレ野崎様>
●ネスレは早くからオムニチャネル化に取組んでおり、2011年にはソーシャルリスニング、2012年にTwitterアクティブサポート、チャットは2013年から開始して、2016年にはWatsonを利用したチャットボットを開始した。
●「コミュニケーションがブランドを創る」という基本戦略のもと、消費者の対話を多くとることによるブランド価値の向上とお客様の生の声を収集するめの一連の施策としてオムニチャネルサポートを位置づけている。
<ヤフー寺下様>
・ネットサービスで自動化、デジタル化になりがちな事業だからこそお客様の生の声を収集するためのオムニチャネルサポートやお客様の声を社内に共有する仕組みが重要。
●チャットサポートもその一環の施策で拡大しており、メール対応数を減らすといったサポートの効率化という視点ではなく、リアルタイムに解決する機会を増やすというお客様の満足度向上に主眼をおいている。
2.チャットサポートの適用に関して
<渡部(研究会の知見)>
●「電話件数を減らしてコスト削減する」といった目的で問合せの多い業務に適用するのではなく、カスタマージャーニー上の業務特性を把握してどのプロセスに導入するかを考慮する必要がある。
●特にヘルプデスク領域での効率化を重視した導入は、顧客満足度下げる要因にもなりかねないので慎重に設計をすることが重要である。
<ヤフー寺下様>
●チャットサポート開始後、対応件数は3年で5倍程度増えており、最近では8,700件/月の件数を対応している。
●チャット対応の満足度(6段階Top3)は87%とメールの満足度(68%)よりも高くまた、チャット対応開始によりメール対応は減っていない。むしろ増えている。
●チャットに向いていない業務は、顧客満足度が下がりそうなエスカレーションが必要であったり、時間がかりそうな業務。
●品質を向上させる運用のためには、電話系コールセンターでも実施しているような、標準化、教育研修、知識の共有化を徹底して実施すること。
<ネスレ野崎様>
(「ネスレではコーヒーマシーンのトラブル対応等にもチャット対応しているが、満足度が下がるようなことは無いのか?どんな工夫をしているのか?」という問いに対して)
●チャットを利用すれば、デジタルコンテンツ(写真や仕様書マニュアル)を対応途中で即座に送付でき、電話で対応するより、正確かつ迅速に対応できるようなケースが多い。
3. チャットボットの適用に関して
<渡部(研究会の知見)>
●満足度の高いサービスは6つのサービス品質をお客様の事前期待に合わせて発揮することであり、ボット対応でも同様の方法論が使える。
●ボット技術進化やコールリーズン等を考慮して、チャットボットを適用するサービス品質を意識した対話設計を実施することが重要となり、「心で満足」レベルまでの品質はまだ現段階ではボットだけでは厳しいのでは。
<ネスレ野崎様>
●ビジネス的は背景は直販ビジネスを増やすとともに顧客とのコミュニケーション量を増やしたいが、①コミュニケーターを確保できない、②応対品質のばらつきがある、③コストが量に比例して高くなる、という問題を解決するためにAIの導入を決定した。
●サービスインまで1.5年かかったが、コンタクト量の拡大、正答率の向上、コスト削減も順調に進んでいる。
●AIが万能だと思ってはいけない。特に「察する能力」はまだまだである。範囲の拡大、深さの追及、質の拡充の3方向の進化を考慮しながらAI適用を深めていくこと。
●①人によるチューンUPが導入前後に必要であり、機械学習には限界がある、②人と同じコミュニケーションは難しいが、アイデア次第で自然な会話に近づけることは可能、③自動応答の時代は必ずやってくる、という前提に中長期のコミュニケーション戦略を立てて行動すべきである。
<ヤフー寺下様>
●①AIを使って何を実現したいのかを社内で徹底的に議論し、明確にすること、②コスト(規模にもよるが導入に2億から6億くらいかかっている企業が多い)に見合う効果を出せるかしっかり試算しておくこと、③AIとオペレータとの業務のすみ分けを導入前から考えておくこと、AI導入して成功するための注意点である。
4. パネルディスカッションを終えての考察
今回はチャットやAIの技術的視点というより、お客様視点や経営的視点での適用に関して議論し、非常に有意な知見を得られました。
まず、オムニチャネルサポートやチャット、ボット導入は経営レベルでのしっかりとした目的を社内でシェアすることが重要であることをあらためて理解しました。オムニチャネル、特にAI導入には数億レベルの投資が必要となってきます。それを、「はやりだから」「他社も取り組んでいるようなので、今時対応しなきゃまずいでしょう」「Watson使っていると世間に公表すれば評判がいいのでは?」といった安易な発想で取り組むと必ずと言って挫折します。
ネスレ様では、「コミュニケーション、すなわち消費者との対話がブランドを創る」というぶれない企業方針のもと推進しているため、「対話量を増やす必要がある」→「オムニチャネル化」→「対話の高度化と効率化を両立させる必要がある」→「AI技術の導入」という投資と推進を重ねて、最終的には消費者と高度にパーソナライズされた対話の量と質を向上させていくことでブランド向上につなげるという意思が見えました。
また、デジタルサービスの先駆者であるヤフー様では従来のメール対応から、「顧客満足度向上にはアナログ的な対応やお客様の生の声を把握することが重要だ」という基本方針のもと、手間もコストもかかるオムニチャネル化を推進しておりおそらくこの先は電話対応も始めることが想定され、カスタマーサポートでは効率化を目指すことが通常企業の方向性ですが、その真逆を実践していることも、このぶれない企業方針があるからだと感じました。
つぎに、AIの適用に関しては、最近ブームのように各社が導入を開始していますが、コストも効果もなかなか出てこなくて早くもAI疲れになっている企業も多いように思えます。そんな中で、ネスレ様では、上述した企業方針のもと、AI技術を見極めて適用できる業務、まだ早い業務等を精査しながら時間をかけて着実に導入している様子がうかがえました。さらに、中期的には技術的課題も解決されAIで自動化される時期が必ずやってくることを信じて、未来のあるべき姿を見据えていることが分かりました。
ヤフー様はソフトバンクグループということでWatsonのおひざ元でもありますので、現在導入に向けて積極的に推進していることとは察しますが、まだ詳細は発表できないようでしたが、ネスレ様同様にしっかりとした基本方針にもとづいた着実な導入と運用を立ち上げ中と想定されました。
オムニチャネルサポートやチャット、チャットボットが言葉が先行したブームに終わることなく、お客様のロイヤルティ向上、さらには企業の強力な施策になるための重要な示唆が得られたパネルディスカッションでした。
今回のパネルディスカッションについてもっと詳しく知りたい方、この記事でお伝えしたようなオムニチャネル全体を考えた顧客ロイヤルティ向上施策に興味のある方は、問い合わせフォームより気軽にご連絡ください。また、今後のセミナー案内を希望する方はメールマガジンに登録してください!
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