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    2015.03.05 その他
    感動サービスの実現に向けて―なぜ従業員の内発的モチベーションが重要なのか

    Hatchapong Palurtchaivong/Shutterstock.com

    「我が社でもディスニーやリッツ・カールトンのような感動サービスを提供したい」

    サービス業において感動サービスを目指す企業は多い。感動サービス実現の最大の担い手は従業員であり、彼らの熱意や創意工夫の源泉となる内発的モチベーション(※)の向上は極めて重要である。しかし、現実には、従業員の内発的モチベーション向上を経営課題として捉えている企業はあまり多くない。

    本稿では、あらためてなぜ従業員の内発的モチベーション向上を経営課題として認識すべきなのかについて考察したい。

    (※)金銭や地位などの外発的なモチベーションではなく、自分の内面からの意欲からくる内発的なモチベーション

     

    従業員の内側から湧き上がってくるサービス精神

    全国のトヨタ販売会社の中で顧客満足度ナンバーワンの評価を得ているネッツトヨタ南国相談役である横田英毅氏は、自身の著書『会社の目的は利益じゃない(あさ出版)』で、サービス業において顧客を感動させる要因は、「内側から沸き上がってくるサービス精神でやりがいをもって働く人々」にあるとしている。

     

    「笑顔がいいですね」

    「みなさんやらされてないですね」

     

    NPSの観点では、顧客がこのような感情を抱くとき、ついつい9点、10点を付けたくなると言える。つまり、単なる顧客から推奨者に転換する”真実の瞬間”だ。

    しかし、マニュアルによるオペレーション効率主義のもとで働く従業員では、顧客にこのような感情を提供することは難しい。マニュアルに縛られない、従業員の内発的モチベーションからくる”脱マニュアル”とも言える行動が顧客に感動を与えるからだ。

     

    オペレーション効率と感動サービスの関係

    そもそも、オペレーション効率と感動サービスとはトレードオフの関係にある。従業員の創意工夫を奨励し、マニュアル外の行動を取らせれば、オペレーション上のミスや非効率が発生する可能性もある。それは経営トップやマネジャーにとってはリスクであり、またその結果マイナスの評価をされる可能性があるという意味では、現場の従業員にとってもリスクになり得る。ではなぜこのようなリスクを冒してまで、これまでオペレーション効率を重視してきた企業が感動サービスの提供を目指すのか。もしくは、目指さなければいけないのか。その背景には、顧客ニーズの高次化と競争環境の激化といった切実な環境変化があると筆者は考える。

     

    マニュアルによる効率的なオペレーションは、顧客に対して低価格、迅速さ、正確さといった価値を提供する。しかし、これらの”ものさし”では、顧客にとって競争相手との間に差異を見出すことは難しくなってきている。つまり、”サービスのコモディティ化”と呼ばれる現象だ。一方で、顧客は「特別な経験」という価値には喜んで価格プレミアムを支払う。スターバックスがドトールコーヒーといった他コーヒーチェーンストアよりも数百円高いコーヒーを売れるのは、単にコーヒー代としてだけではなく、居心地のいい場所、親しみのもてるスタッフといった、経験価値を顧客が認めているからである。これが『経験経済』と呼ばれる新しい経済システムの概念である(下図参照)。”脱コモディティ化”、つまり顧客に選ばれ、価格プレミアムを支払ってもらうこと―これが差別化要因としての「感動サービス」が求められる背景だ。またNPSは顧客が提供されたサービスを、「ただのサービス」か「感動サービス」か、どちらとして認識しているかを測定する指標であると言える。

     

    新しい経済システムの概念図

    環境で変わる従業員の位置付け

    経験経済という新しい経済システムの出現に伴って、企業の中で働く従業員の位置付けも変化している。コモディティ化されたサービスにおいて、単純作業を行うだけの「労働者」。そこからオペレーションを重視し、効率追求する上で必要なのが多少高度化された作業を正確かつ効率的に行う「機械」としての従業員。経験経済で従業員に求められるものは情熱や創意工夫である。なぜなら、顧客接点において感動が生まれるのは、従業員の内発的モチベーションからくる情熱や創意工夫が顧客に伝わるからである。したがって、経験経済では、パスカルの“考える葦”ではないが、従業員は自発的に創意工夫を行う「人間」として位置づけられる。このように従業員に求められる役割も時代とともに変化しているのである。

     

    感動サービスの必要性を十分に理解しないまま、感動サービス実現の方法論だけを検討すると、変革に伴う様々な困難を目の当たりにしたときに、経営トップによる意思決定がリスク回避型になり、本当に重要な意思決定が行われなかったり、社内でのコンセンサスが中途半端なものとなってしまい、現場スタッフを巻き込めなかったりして、結果として感動サービスが単なるスローガンになってしまいがちだ。よって、感動サービスの必要性を理解した上で、どのような方法論を取ればそれが実現可能なのかを考える―この順序が大切だと言える。

     

    感動サービスの必要性を理解したとすると、次に、どうすればそれを実現できるのか。そのカギとなるのが従業員の内発的モチベーションだ。次回は従業員の内発的モチベーションのアプローチについて考察してみたい。

     

    SHAR

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