2015.09.10
従業員エンゲージメント
【事例紹介】パート定着・戦力化のポイント 会社の「愛」が伝わるから、「ここで働きたい」と思われる
こんにちは、働きかた研究所 平田未緒です。私は、パート・アルバイトさんが活躍している企業を約20年にわたり取材し続けてきました。ここでは、その経験に基づく、「パート定着・戦力化のポイント」をお伝えします。
結論から言えば、最大のポイントは、「相思相愛」。企業側(社長・店長・正社員)と、働く側(パート・アルバイトさん)が、互いに「この人に働いてほしい」「この人に働き続けてほしい」、「この会社で働きたい」「働き続けたい」と思い合えているか、です。 そう、要はエンゲージメントなんですね。
今回は、「厳しく、つらい仕事」として敬遠されがちなクリーニング工場でありながら、従業員の定着・戦力化に成功されている喜久屋さんについて、その根幹となる「考え方」を学びたいと思います。
仕事の厳しさを上回る、「働く価値」を提供する
東京都足立区に本社を置くクリーニング業・株式会喜久屋では、社長自ら「クリーニング工場で働きたい人なんていない」と言い切るほど厳しい職場環境にありながら、「パートでも20年、30年選手はざら」というほどに、社員が定着しています。
その理由は、同社の社長、中畠信一さんが考え抜いた末の、「発想の大転換」。つまり、「クリーニング屋ではなく “喜久屋で”働きたいと、思ってもらえるようにすればいいじゃないか」というものでした。
中畠さんは、「クリーニング工場で働く厳しさは自分が一番わかっている。どんなに工夫・改善しても、仕事の性質上、変えられない部分が正直ある。では、その厳しさを補って余りある価値を、喜久屋で働くことで、得てもらおう。そうすることで、働く場として選んでもらえるように努力しよう」と決意されたのです。
「自社でよかった」を経営理念に
中畠さんは、この考えを、全社に広げ、徹底しようと考えました。そこで行ったのが、これを経営理念にすることです。
具体的には、「喜久屋でよかった」。意表を突かれるような、それでいてきわめてシンプルな言葉です。でも、深い。
中畠さんは説明します。
「これを経営理念に置いたのは、私はもちろんスタッフ全員で、共にこれを目指していこうと考えたからです。自社のスタッフに、『喜久屋で働いていてよかった』と思ってもらえると同時に、お客様にも『喜久屋を利用してよかった』と思ってもらえることが、とても大事だからです」
もちろん、一朝一夕にはできません。なのに喜久屋では、「喜久屋でよかった」が実現されています。喜久屋に学び、自社でも再現するためには、いったい何から始めればよいのでしょうか。
すべての工夫は「愛」から生まれる
「愛、なんですよ」
一瞬黙った後、中畠さんの口から、力強く発せられた言葉です。
要するに、自社で働く従業員の立場や気持ちをおもんばかり、「こうしてあげたい」「ああしてあげたい」、そして「共に良くなりたい」と思う気持ち。これこそが「愛」であり、経営をするなかで、この「愛」をいかに具体的な形に変換し、従業員やお客さまに届けられるかが大事、だというのです。
「働く人にとっての、『喜久屋で働く価値』はいったい何なのか? こう考えて、いろいろ試み、また努力するなかで、『要するに愛なんだ』と思い至ったんです。例えば、『より安全で快適で疲れづらくするための、クリーニング機械の入れ替えや、配置の変更』などハード面の工夫。また、本人の努力を認めて報いる評価に応じた賃金制度の導入や、小さな子どもがいる母親や近年とても増えているシングルマザーでも無理なく働ける「柔軟なシフト管理」「工場内託児所」制度などいろいろありますが、従業員を愛する気持ちがあるからこそ、いろいろなアイデアを考え出せるし、それを実現するための努力や工夫ができるんです」
どんな取り組みも、時間がかかり、手間がかり、コストがかかる。それを「敢えて」行えるのは、働いてくれる従業員一人ひとりを愛すればこそ、というのが中畠さんの思いです。
従業員が「喜久屋が好きだ好きだと言ってくれる」
喜久屋では、こうした一つひとつを通じ、従業員に対する「愛」が、働く人一人ひとりに確実に伝わっています。だから皆が、ここで働きたい、働き続けたいと思うのです。
その結果、強いロイヤリティが従業員に、自然に生まれてきています。これぞ、究極の相思相愛状態です。中畠さんの以下の言葉は、その証と言っていいでしょう。
「なんでしょうねえ。社員、従業員がみんな、喜久屋が好きだ好きだと言ってくれるんです。あと、喜久屋に集う人たちがとても仲がいいのだと思います。私も、パートさん一人ひとりに、積極的に声をかけます。それも、家族のこととか、けっこうプライベートなことにも触れますね」
会社を信頼しているから、愛され守られていると感じるから、不安なく安心して仕事に専念することも、会社の方針に従って100%の力を発揮することもできるのです。定着・戦力化はこの結果にすぎません。
そして同時に、原因にもなっています。両者は因果し相関しているということです。
取材・文/株式会社働きかた研究所 代表取締役所長 平田未緒
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