2017.06.28
NPS
【レポート】TSIホールディングスの「中期経営計画」に学ぶ NPSの活用とPDCAサイクルの徹底事例
トータル・エンゲージメント・グループ(以下TEG)のNPSコンサルタント、藤谷拓です。
TEG主催のエンゲージメント事例を紹介する勉強会、Engagement Conferenceのレポートをお伝えします。
目次
- 1 日本ではレア! トップダウンでのNPS導入事例
- 2 Engagement Conference 今回のアジェンダ
- 3 【第1部】 ◆TSIホールディングスの「中期経営計画」に学ぶNPSの活用とPDCAサイクルの徹底事例~顧客ロイヤルティを測る指標「NPS」導入拡大の効果とは?
- 4 1:顧客NPS(cNPS)の向上取り組みについて
- 5 2:従業員eNPSの向上について
- 6 一番むずかしいPDCAサイクルを習慣化
- 7 【2部】 ◆NPSベンチマーク Key to Success to NPS Program ‘’Why dose your program fail? 2’’ (NPSプログラム成功の鍵 なぜあなたのプログラムは失敗するのか??)
日本ではレア! トップダウンでのNPS導入事例
6年目を迎える今回、メイン講演は、トップダウンによるNPS(Net Promoter System)の導入に成功された株式会社TSI ホールディングス(以下、TSI)様の事例紹介です。
TSIは数々の人気ブランドを持つアパレル企業を傘下に持つ東証一部企業で、2015年より経営主導によるNPSの導入を推進し、株主向けの年次報告書に「NPS(顧客Net Promoter Score)」や「eNPS(従業員Net Promoter Score)」の取組について公言しています。
(資料より: TSI社のブランド一覧)
顧客視点と従業員視点を重視する経営方針を明らかにして指標を公開する例は米国企業では珍しくありませんが、日本では極めて稀です。日本のNPS運用における最先端の活動をされている企業と言えるのではないでしょうか。こうした顧客満足や従業員満足改善の取り組みは日経新聞や繊研新聞でも取り上げられ、アパレル業界はもちろん、業界を超えて注目を集めています。そのおかげもあってか今回の勉強会には大手アパレル企業の方々はもちろん、金融、流通、ITなど、45社60名ものご参加を頂きました。ほとんどは経営企画、マーケティング、CRM関連の方々でした。
当日のプログラムは以下の通りです。
Engagement Conference 今回のアジェンダ
【第1部】
◆TSIホールディングスの「中期経営計画」に学ぶ
NPSの活用とPDCAサイクルの徹底事例
~顧客ロイヤルティを測る指標「NPS」導入拡大の効果とは?
講師: 加賀谷 三平 氏
(株式会社TSIホールディングス 事業戦略本部マーケティング室コミュニケーションアーキテクト )
NPS(顧客ロイヤルティ指標)、eNPS(従業員ロイヤルティ指標)、PDCAの3つを基軸に、TSI社さんでの取り組み事例をお話しいただきました。
【第2部】
◆NPSベンチマーク
Key to Success to NPS Program
‘’Why does your program fail? 2’’
(NPSプログラム成功の鍵 なぜあなたのプログラムは失敗するのか? Part2)
講師: 藤谷 拓
(株式会社トータル・エンゲージメント・グループSALES DIV GM)
アメリカ・イギリスを中心にNPS導入は進んでいます。
けれど、NPS先進国でも、プログラムが機能している企業とそうでない企業が存在するといいます。成功するための鍵は何なのか? わたくし藤谷がお話しさせていただきました。
では、メイン講演のレポートから、お伝えしますね。
【第1部】
◆TSIホールディングスの「中期経営計画」に学ぶNPSの活用とPDCAサイクルの徹底事例~顧客ロイヤルティを測る指標「NPS」導入拡大の効果とは?
講師: 加賀谷 三平 氏
(株式会社TSIホールディングス 事業戦略本部 マーケティング室コミュニケーションアーキテクト)
2015~16年のアパレル業界はまさに「混迷」の一言でした。大手ブランドの撤退、店舗の大量撤退・閉店が相次ぎました。そんな環境の中、TSI社では齊藤新社長のもと新しい中期経営計画が示されました。
「収益基盤の強化」はそこで示された戦略の柱の1つです。そしてそれを実現するためのオペレーションの高度化の策として、NPS(Net Promoter Scoreを使った顧客ロイヤルティ向上プログラム)の導入がトップダウンで決まりました。
「顧客体験の上質化」を目的にしたオペレーションの高度化とは具体的には、
1:顧客NPS(cNPS)の向上
2:従業員NPS(eNPS)の向上
3:1、2の数値化と、出された示唆から高速にPDCAを回す
を指します。
講演者の加賀谷さんが所属する顧客ロイヤリティ推進プロジェクト(現:事業戦略本部 マーケティング室)がNPSの導入実務を主導。
1:顧客NPS(cNPS)の向上取り組みについて
◆経済効果を可視化する
加賀谷さんのチームでは、「批判者を減らして推奨者を増やすことが、会社にも自分にも、良い結果をもたらす」ということを数字で腹落ちしてもらうために、NPS調査のパイロット運用時に経済効果の可視化を実施しました。それによって推奨者(「究極の質問」に10点・9点をつけたお客様)は批判者(6点以下をつけたお客様)に比べて1.6倍の年間購入額があることが判明。
一般的にNPSが高くなれば、収益も高くなると言われていますが、「自社や自ブランドにおいてどうなのか? どれくらいの経済的なメリットがあるのか?」を早い段階に具体的に示しておくことはとても重要です。ともするとお飾り的な掛け声になりがちな「顧客満足向上」活動ですが、顧客セグメントによる価値の差異を確認することで、売上・利益に直結する「顧客ロイヤルティ」の話に昇華します。
◆スモールスタート×クイック・ウィン
NPS導入で「基本の”き”」とも言われるプロジェクトの進行スタイル、「スモール・スタート&クイックウィン(小さく始めて、素早く成功する)」にも注意が払われました。
2:従業員eNPSの向上について
◆eNPSにコミットするのは経営と本部
NPS(顧客ロイヤルティ指標)以上に、現場に大きなショックをもたらすのが、eNPS(従業員ロイヤルティ指標)の結果です。TSI社での取り組みでも例外ではなかったそうです。
数値は店舗によって相当バラツキます。それなりのところもあれば、とても厳しいスコアになるところもあります。しかし、eNPSの結果と改善にコミットするのは、経営・本部であり、現場は顧客のNPSにだけ責任を持つ、というルールが共有されているそうです。なんとも理想的。このような住み分けがしっかりできていれば、たとえ結果が厳しくても、店長をはじめとする現場スタッフはお客様への対応に集中できますし、なにより、納得感が増すと思います。
個人的にすごいなと感じたのは、eNPS調査の可視化のひとつとして紹介されていたマネージャとスタッフのeNPSを比較するフレームワークです。今まで売上成果の陰に隠れて見えていなかった店舗の状態を丸見えにすることができる、と参加者の興味を惹いていました。
従業員調査を実施すると、従業員は必ずしも金銭や待遇の改善だけを求めているわけではないとわかる、と言われます。はたして、TSI社でも、やはりそのような結果が出てきたそうです。では、従業員はなにを求めているのでしょうか?
「上司・部下との関係性の向上」
まさにエンゲージメントを求めていたそうです!?
この傾向は今後ますます強くなっていくのではないでしょうか。
一番むずかしいPDCAサイクルを習慣化
NPSを活用する場合、PDCAの徹底が最も重要。その学びと行動がループ状になっていかなければ、NPSでは何も達成されない。一番難しいPDCAサイクルの習慣化を実現する為には、意識変革よりも先に行動変革を起こす事。意識が行動を変えるのではなく、行動が意識を変える。と言う信念を持って取り組むことが重要。
以前、とある機会で、某世界的自動車メーカーの教育担当の方から伺ったお話を思い出しました。その会社では最高峰の大学を出た優秀な学生の中から厳選した「上澄み人材」を採用しているのですが、そんな彼らですら、自力でPDCAを回せるようになるには平均8年間の教育が必要だいうのです。
「ウチはPDCAが回らないんです」
と嘆くマネージャーさんは沢山います。
けれど、専門の教育もなく、経験もないのなら、いきなり回せることを期待するほうが無理なことなのかもしれません。世界的自動車メーカーが選びに選び抜いた優秀人材ですら8年も時間がかかることを考えると、PDCAというものは自力で回せるわけがない、という前提が必要なんだなと腹落ちしました。
◆ストップ、スタート、コンティニューを決める
もっとも、PDCAが回らなくなる背景には、やらねばならないことは決めるが、やらなくてよいことを決めていない、ということもあると思います。放置しておくと、やらねばならないことだけが増えるので、マネージメント(管理)が機能しなくなるのです。結局、「会社がああ言ってるけれど、実際にはできないよ。」と、やらない事が黙認・追認されてしまいます。
こうしたことが習慣化されている日本企業はそもそもPDCAを回しにくい環境を持っているのかもしれません。個人の資質の問題というより、全社的な問題なのです。
この「PDCAが回らない」というパートを丁寧にご説明頂き、時間を割いて頂いたのですが、参加者のみなさんの顔色が一気にくらくなり、しかめっ面に変わったように感じました。
なぜでしょうか? 重大な気づきがあったからだと思います。
NPSやeNPSは、ロイヤルティを手軽に計測できるすばらしい指標です。しかし指標はあくまで指標であって、成果を変える特効薬でも魔法のツールではありません。結果の数字を向上させるには、PDCAを地道に執拗に回し続けるマネージメントの能力と胆力が必要なのです。秘密のノウハウはありません。みなさん、そのことを悟られたのではないかなと感じました。
◆課題はまだまだ山積み
現在TSI社のNPSとeNPSの取り組みは3年目。スモールスタート&クイックウィン(「小さく始めて素早く成功する」)を様々なブランドで実施して、成功パターンがある程度が見えてきたそうです。今後、具体的に全ブランド全店でのNPSの導入を目指されるそうです。
TEGもこれまで培って来たノウハウを提供して、
1:集計分析手順の省力化
2:取組のバラツキをなくす方法とノウハウ
3:改善サイクルのスピード化
といった領域でサポートさせていただきます。
「言うは易し、やるは難し。」
我々も現場に出て、日本では稀なトップダウン型NPS導入をご一緒させていただきたいと思います。
【2部】
◆NPSベンチマーク
Key to Success to NPS Program
‘’Why dose your program fail? 2’’
(NPSプログラム成功の鍵 なぜあなたのプログラムは失敗するのか??)
講師: 藤谷 拓
(株式会社トータル・エンゲージメント・グループSALES DIV GM)
アメリカ・イギリスを中心に企業のNPS導入は進んでいます。
海外のNPS導入企業12,000社に対するアンケート調査から明らかになった
1:成功、失敗を左右する要件
をご紹介し、
2:日本ではどうすれば導入がうまくいくのか
について、お話しました。
前回のEngagement Conferenceでも同タイトルのお話をさせていただいたのですが、講演が盛り上がってこのお話が時間切れとなってしまったため、ほぼ同じ内容をお話させていただきました。ただし、1箇所だけ、コンテンツを追加させていただいています。それは
「プログラムの導入で日本企業の場合、絶対必要な要素Extensive Middle Manager Buy-in.(広範囲に業務を知る中間管理職の巻き込み)」
です。
今回、この追加部分についてだけ触れさせていただきます。
【1部】でご講演いただいたTSI社のようにトップダウンで(経営主導で)NPSを導入するというケースは非常に稀です。ほとんどの企業では、経営企画やマーケティング、CRMといった部署が主導し、ボトムアップでNPS導入が進められています。
その一方で、NPS改善の最前線は顧客接点の現場ですから、NPSを導入してスコアを向上を実現するためには導入を主導する部署と店舗や現場の部署との綿密なコラボレーションが必須になります。
●マーケティング領域でのNPSを改善する場合、
→マーケティング部門×NPS担当チーム
●店頭での顧客体験を改善する場合、
→営業部門×NPS担当チーム
●カスタマーサポートでの顧客体験を改善する場合
→カスタマーサポート部門×NPS担当チーム
価値観も日々の業務も異なる部署のコラボレーションは簡単なことではありません。しかし成功事例を調べてみると、ある共通する存在が見えてきたのです。それがExtensive Middle Manager Buy-in、すなわち、広範囲に業務を知る中間管理職の巻き込みです。
組織図の中の上下方向にも(役員クラスにも現場にも)、左右方向にも(部門の壁を超えて)顔のきく中間管理職がプロジェクトに参加することで部署間コラボレーションや調整がスムーズになるのです。NPS導入を主導する部署にそういう人がいれば願ったりかなったりですが、もしそういう人がいなければ、社内から見つけ出し、できるだけ早期にプロジェクトに巻き込むようにします。
第二部ではそんなお話をさせていただきました。
Engagement Conferenceでは今後も注目企業の方のご講演、話題のエンゲージメント構築トピックスを紹介してゆきます。ぜひ機会があったらご参加ください。
顧客体験(CX)、NPSに
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