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    2014.10.10 NPS
    NPS (Net Promoter Score)は「究極の質問」。しかし、「絶対唯一の質問」ではありません!

    ネットプロモータースコア(Net Promoter Score、以下「NPS」)算出のための質問は、「究極の質問」だと言われています。

    究極の質問だと形容される理由には大きくは2つあります。ひとつは、自社、あるいは自社製品・サービスに対する本音の評価、すなわち率直な評価が得られること。もうひとつは、業績との関連性が強いことです。

    NPSの質問は率直な評価が得られる

    NPS算出のための質問は、端的に言えば

    「自社(あるいは製品、ブランド)についての友人・知人への推奨意向」

    です。以下のような設問に対して、10点満点(0-10点)で聞くのが標準的な方法ですね。

    自社(あるいは製品・ブランド)を友人・知人(あるいは同僚、家族など)などの親しい人にどの程度、(利用を)勧めたいと思いますか?

    既存の満足度調査での設問「自社(あるいは製品・ブランド)について、どの程度満足されていますか?」という設問の場合、あくまで自己評価ですから、評価が甘目に出やすいのです。

    あなたも、なんらかの満足度調査に回答するとき、本音で言えばまり満足していなくても、「‘まあ満足’と回答しとくかな・・・」と思った経験ありませんか?よほど嫌な経験をしない限り、適当にお茶を濁すような回答をしてしまいがちなのではないでしょうか。

    一方、「友人・知人への推奨意向」を聞かれた場合、推奨する人に対する責任が生じてきます。しかも、友人・知人のような親しい人ですから、彼らの信頼を失うような企業、製品、ブランドはうかつに推奨できない。したがって、この設問に対してはお茶を濁すような回答はできず、正直で率直な評価になるというわけです。

    NPSは業績との関連性が強い

    NPSは業績との関連性が強いことが、「究極の質問」と呼ばれるもうひとつの理由です。

    関連性が強いというのは、例えばNPSが10から20へ、あるいは20から30へと上昇すると、それは明確な業績向上として反映されてくるということです。したがって、NPSを全社的な指標として周知徹底し、その数値の向上を目標として掲げて接客、サービスなどの企業活動を改善すれば確実な業績上昇につながります。

    すなわち、単なる現状把握にとどまらず、確な業績向上に役立つツールとしてNPSは利用できる。そもそも、NPSを開発したべイン&カンパニーのライクヘルド氏は、顧客の満足度やリピート意向など、様々な質問と業績との関連性(相関)を膨大なデータ分析を通じて検証し、おおむねも業績との相関が高い設問として「友人・知人への推奨意向」を選び出し、またNPSの独特の算出方法を決定したわけですから当然のことなんですけどね。

    NPSは、絶対唯一の指標ではない!

    NPSさて、NPSが多くの場合、「最も使える指標、ツール」であることは確かではありますが、あらゆる業種・業態において常に有効とはかぎりません。つまり、絶対唯一の使える指標と言い切ることはできません。このことは、Satmetirix社が全世界各地で開催している「NPS認定コース」においても強調されていることです。NPSを伝道するSatmetrix社の講師自らが、

    「NPSを金科玉条のように扱うべきではない」

    と警戒を促しています。

    大事なことは、自社(製品、ブランド)の業績に最も関連性の高い指標であるかどうかです。ひょっとしたら、あなたの企業では、NPSよりも従来の満足度指標のほうが業績との関連性が高く、より使える指標かもしれません。したがって、NPSだけでなく様々な指標を試し、検証して、自社にとって最も使える指標(一つではなく複数かもしれません)は何かを明確化する必要があります。

    TDR(東京ディズニーリゾート)が重視する指標とは?

    具体例をひとつご紹介しましょう。

    東京ディズニーリゾート(以下「TDR」)に行かれたことのない方はほとんどいないと思いますが、仮に「TDRをどの程度友人・知人に推奨しますか?」と聞かれたら、おそらく多くの人は高い点数を答えるだろうと思います。

    TDRは子供から大人までだれもが楽しめるエンタテイメント施設ですから、そもそも推奨することに対するリスクが低い。おそらく、NPSを算出したら70とか80とか、非常に高い数値になるのではないでしょうか。

    しかし、TDRの他者推奨意向が高いからといって、自分もまた行きたいか(再来園意向が高いか)どうかは別のように思います。他者には勧めても、「自分はもうTDRは卒業したかな」という人もいるでしょう。(このあたりは私の仮説であることをご承知おきください)

    そもそも、万人向けのエンタテイメント施設のように「推奨意向」が高めにぶれやすいものについては、NPSはそれほど有効ではないかもしれないのです。

    TDRを運営するオリエンタルランドでは、とりわけリピート率向上することを重視しており、これに直結する顧客満足度の改善に力を入れています。同社は、年10万件に及ぶゲスト(来場者)との対面調査やオンライン調査の結果を緻密に分析した結果、以下のような知見を得ています。

    1 顧客満足度の高さは必ずしも体験したアトラクションの数に比例しない。

    これは、1度の入場で、たくさんアトラクションを経験すればするほど満足度が上がるわけではないという意味です。

    2 アトラクションごとの満足度を「非常に満足」から「非常に不満」までの5段階で聞いた場合、「非常に満足」の絶対数が重要

    単に合格点を超えればいいのではなく、「満点」でなければならないと、オリエンタルランド会長、加賀美俊夫氏は述べています。ただの「満足」ではなく、「非常に満足」と答えてもらえることが大事ということですね。

    そして実は、

    再来園意向は、「非常に満足」と感じたアトラクションの数が4つ以上になると90%前後まで高まる

    という傾向が分かっているそうです。

    たとえば、10のアトラクションを体験したとしても、「非常に満足」3つ以下だとそれほど再来園意向は高まらない。逆に、4つしかアトラクションを体験できなかったとしても、それらすべてが「非常に満足」であれば、再来演意向は大きく高まる、ということが言えるわけです。

    そこで、オリエンタルランドでは、TDRの一つひとつのアトラクションの魅力を高め、「非常に満足」と感じてもらえる来園者を増やすための経営戦略に落とし込んでいくことで、リピーターを増やそうとしているのです。

    TDRのケースでおわかりのように、既存の顧客満足度指標であっても、「非常に満足」の数値にのみ着目し、またその絶対数を重視することで、業績向上に直結するリピーター創出に活用できる指標となりうるということです。

    NPSは多くの業種・業態において最も活用しやすい、使える指標ではありますが、唯一絶対指標でないことをぜひ頭の片隅に置いておき、他の指標も含めて業績向上に直結する活用法がなにかを個々の企業で模索する必要があります。

    *TDRの事例は、オリエンタルランド(OLC) 加賀美俊夫の経営教室(日経ビジネス2014.02.10)を参考にしました。

    Net PromoterおよびNPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

    (執筆者)

    松尾順

    松尾 順

    エンゲージメントフォーラム CEO(Cheif Engagement Officer)

    SHAR

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