2013.10.14
顧客エンゲージメント
高い顧客満足度を実現し、90%の稼働率、70%のリピート率を誇るスーパーホテルの秘密!
目次
スーパーホテルは全国に106店舗(2013年3月期現在)を展開するビジネスホテルです。
一泊5千円を切る価格でありながら、清潔で快適な客室、無料の朝食、場所によっては天然温泉の共同浴場もあり、コストパフォーマンスが極めて高いことから、ビジネスパーソンに人気のホテルです。
稼働率は一般に60%と言われる中、同ホテルは約90%を維持、リピート率も驚異的な70%を達成しています。
顧客満足度調査会社、J.D.パワーが実施した「アジア・パシフィック2011年日本ホテル宿泊客満足度調査」の1泊9,000円未満のホテル部門においてホテル宿泊客満足度No.1に輝いています。
さて、従来のビジネスホテルと言えば、私自身もあまりよい記憶はないのですが、薄汚れた感じの床や壁、狭いベッド、薄い壁から漏れてくる隣室や廊下の音、おいしいとは言えない朝食など、仕事で泊まってるんだし、寝る場所が確保できてるだけましかな、というあきらめが必要でした。
スーパーホテル創業者の山本梁介氏も、自分がビジネスホテルに泊まった時の「不快さ」をどうにかしたいということが、スーパーホテルの画期的なビジネスモデルを考案するきっかけとなったようです。
スーパーホテルが重視していること、すなわち基本コンセプトは、
快適、清潔、くつろげる
という点。そして、「安眠」「快眠」のために徹底的なハード整備に取り組んだのです。なぜなら、ビジネスパーソンの多くは夜10時頃にチェックインし、朝8時にはチェックアウトして仕事に出かけていきます。ホテルでの滞在時間は10時間ほど。その70~80%は睡眠時間です。したがって、「ぐっすり眠れる」かどうかがホテルの満足度を大きく左右するからです。
スーパーホテルでは、安眠、快眠のために以下のような様々な工夫をしています。
・枕は好きな固さが選べる
・シングルルームでも、ゆったり眠れるダブルサイズベッド(150cm x 200cm)
・ベッドはほどよい固さの低反発マット
・壁は防音設計で廊下や隣室の音が漏れてこない
・冷蔵庫はインバーター式の静音タイプを採用
・照明は、フロント、廊下、客室と徐々に明るさを落として自然な眠りを誘う
私もスーパーホテルには何度か宿泊したことがありますが、部屋自体はそれほど大きくないものの、広くて寝心地のよいベッドはほんとうに気持ちが良かったです。
また、繁華街、あるいは幹線道路に面した立地であっても、客室内は静かで眠りを妨げることがありません。
同ホテルでは、宿泊客が「ぐすり眠って、スッキリ目覚める」を体感し、一日を元気に過ごせるように、快適睡眠の研究を進めています。大阪府立大学と共同設立した「ぐっすり研究所」において、科学的に睡眠を研究し、その成果をホテル運営に活かしているのです。
宿泊者としてもうひとつ嬉しいのは、朝食が無料なことでしょう。無料とはいえ野菜とタンパク質が十分取れるように配慮された健康的なメニューが並び、「がっつり食べれる」と評価されています。
(これは、私がスーパーホテル・長泉・沼津インターでよそった朝食です)
さて、これだけ充実したハードと朝食無料サービスでありながら低料金が実現できているのは「無駄なコスト」を大胆にカットしているからです。
例えば、客室内に電話はありません。今のビジネスパーソンはみな携帯電話を持っているから電話は不要という考えからです。また、客室内の冷蔵庫も空っぽ。ホテルの近くにはたいていコンビニがありますので、自分で好きなものを購入してくれば間に合います。
また、宿泊料金は前払い、客室キーをなくし、パスワードでの入出を可能にしているため、チェックアウト(精算)が不要です。おかげで、通常同規模のビジネスホテルなら8名のスタッフが必要なところ、4名で運営できるようになっています。
掃除の手間も省けるように、脚がなく、フロアに直置きするタイプのベッドを採用。(掃除で大変なのは、ベッドの下をきれいにすることだそうです)
天然温泉の共同浴場も、宿泊客にとっては大きめの浴槽でゆったりと天然温泉が楽しめる一方で、客室内のお風呂・シャワーの利用が格段に減るため、節水効果も高く、水道代の大幅な節約につながっています。
また、エコの発想から、自然(地球環境・資源)や社会を大切にし、無駄遣いを減らす「LOHAS(Lifestyle of Health and Sustainability)」を掲げ、連泊の場合のタオル・シーツ交換をなしにしたり、マイ箸を持参したり、使わなかった歯ブラシをホテル側に戻した宿泊客にはペットボトルの水などのプレゼントを渡しています。これは環境にやさしいというだけでなく、一定のコスト削減効果もあることでしょう。(エコによい行動のことを同ホテルでは「エコひいき」と呼んでいます。
ただ、スーパーホテルが高い評価を得ているのはコストパフォーマンスの良さだけではありません。むしろ、ホテルスタッフのフレンドリーであたたかな接客によるところが大きいのです。山本氏は、「100人のお客様のうち1人しか困らないようなサービスを切り捨てよう」という考えのもと、不要なサービスを勇気を持って削ぎ落とすことで「安眠」「快眠」が実現できる高品質でかつ低コストのビジネスモデルを確立しました。
スーパーホテルは、お客様にとって「第二の我が家」のようにくつろいでいただきたいという思いから、「いらっしゃいませ」ではなく「おかえりなさい」という言葉でお客さまを迎えます。朝は「いってらっしゃい」です。
山本氏は、「お客様と言葉を交わし心を通わすことがお客様との良好な関係を築くためにとても重要」と考えており、フロントスタッフは積極的なお声掛けを行っています。
スタッフが携行している小冊子「サービススタンダード」では以下のような内容が書かれています。
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◆サービススタンダード◆
私たちは、お客様に元気な挨拶と明るい笑顔、そして心のこもったおもてなしで、お客様に“第二の我が家”をご提供いたします。
1.明るい笑顔と元気なご挨拶でお客様をお迎えします。
2.お客様のお名前をお呼びします。
3.プラスαのお声がけをします。
4.お客様お一人お一人のニーズを先読みします。
5.一歩前に歩み寄った接客で、心のこもったおもてなしをします。
6.朝は明るい笑顔と大きな声で「おはようございます」と、元気なご挨拶をします。
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実際、私が接したスーパーホテルのフロント係の方を始めとするスタッフの方は気さくな感じであいさつしてくれ、心地よい印象を感じたことを覚えています。
宿泊客がお客様相談室宛に送るアンケートの自由回答欄をまとめた冊子「お客様に喜ばれる接客を目指して~お客様からのお便り集~」(Vol.10)を見ると、
・朝食の返却時、私が右腕を湿布していたのを見て、すばやく私に代わって返却して下さった。小さなことですがありがとう。(スーパーホテル北見)
・支配人の人柄に習ったようにフロントの皆さんがとても気遣いがあり、気持ちよく泊まらせていただいています。挨拶も皆さん必ず声を掛けてくださる。また利用したいと思います(スーパーホテル小山)
・昨日雨風が強く、服が濡れました。ホテルに入った時、フロントの方が服を拭いていただき、感動しました。(スーパーホテル JR上野入谷口)
といった感想が書かれています。
スーパーホテルが目指しているのは、満足を超えた「感動」です。そのために「どのようにしたらお客さまに喜んでいただけるか」をスタッフが自分の頭で考え行動すること。そして、お客さまの喜びを、自分の喜びとして受け止めることのできる人間になること。
こんな人材のことを山本氏は、「自律型感動人間」と呼び、人材育成、および社員間のコミュニケーション(「話し込み」)に力を入れています。なぜなら、感動はマニュアルでは実現できない。必要なのは「感性」と「人間性」と考えているからです。そこで、スタッフの「自分磨き」を支援しています。
スーパーホテルは、「ぐっすり眠れる、くつろげる場所」に特化し、他の余計なサービスを省略することで、高い付加価値の提供と低コスト化を実現しており、いわゆる「ブルーオーシャン戦略」の成功例として紹介されてきています。
しかし、同ホテルをさらに魅力的にしているのは、地球や社会に対して良きことをなす「LOHAS」を掲げると共に、「おもてなしの心」を持ち、できめ細やかなサービスを行うスタッフによって「共感」や「愛着」を強化していることにあります。すなわち、「顧客エンゲージメント」を実践できているからこそ、清潔な室内、広いベッド、無料の朝食がさらに価値のあるものになっていると言えます。
★参考文献・資料・情報源:
『一泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?』
(山本梁介著、アスコム)
『なぜ、あの会社は顧客満足が高いのか オーナーシップによる顧客価値の創造』
(福富言、川又啓子、西村啓太著、黒岩健一郎、牧口松二編著、同友館)
『お客様に喜ばれる接客を目指して~お客様からのお便り集~ VOL.10』
スーパーホテル 公式サイト
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