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    2026.08.16 調査
    【コラム】私たちは業績と関係ない数字を測っていたかもしれない

    業績と関係ない数字を測っていたかもしれない

    私たちは2010年から、CX-EX(顧客体験と従業員体験)の「見える化」を仕事にしてきました。アンケートを設計し、現場で配り、回収して、集計して、経営会議に持っていく。その繰り返しです。

    気がつけば、延べ420案件、約200社、20業種を超える現場で、精読に耐えるレベルの回答が1,276,846件たまっていました。医療、小売、飲食、メーカー、サービス。業種も規模もバラバラですが、同じ設計思想で、同じように測り続けてきたデータです。

    15年間で積み上がったデータ

    15年間で積み上がったデータ

    ただ、この蓄積を「こういうことが分かりました」という形で外に出したことは、ほとんどありませんでした。個別のクライアントには報告してきましたが、横断で見たときに何が言えるのかは、社内の引き出しに入れたままだったんです。それはそれで、少しもったいない気がしていました。

    なので今回から、不定期の連載という形で、手元の実測データを棚卸ししていくことにしました。世の中で”常識”とされていることを、自分たちのデータで確かめてみる。そういう連載です。(続くかどうかは、気力次第です)

    ――――

    最初に、この記事の芯になる話をひとつ。

    私たちは2010年にNSPを日本に紹介して以来、多くの企業が、顧客ロイヤルティをNPS(ネット・プロモーター・スコア)で測っています。「友人や同僚に薦めたいと思いますか」を0から10で聞き、推奨者の割合から批判者の割合を引く。シンプルで、業種を問わず使えて、集計も簡単です。私たちも、長らくこの設問を使ってきました。

    参考:NPSと顧客満足度(CS)との違いを知っていますか?

    ネット・プロモーター®、NPS®、NPS Prism®そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc. の登録商標です。

    ところが、全国90拠点超のヘルスケアサービスチェーンで実施した調査(有効回答 約4,100件)で、このNPSと売上成長率の関係を調べたところ、”統計的に有意な相関は出ませんでした”。

    そして、設問をたった一行変えただけで、有意な相関が現れました。

    この記事では、その検証の一部始終を共有します。派手な数字の話ではありません。でも、「満足度は測っているのに業績と結びつかない」と感じている方には、そのまま持ち帰れる話にしたつもりです。

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    現場でずっと引っかかっていた、小さな違和感

    きっかけは、データではなく現場の光景でした。

    治療院でも、飲食店でも、小売の売り場でも、同じような場面を何度も見てきました。「いい先生でしたよ」「感じのいいお店でしたね」と笑顔で答えてくださった方が、二度と来ない。逆に「まあ、普通です」と素っ気なく答えた方が、毎月きっちり通ってくださる。

    最初は、単なる個人差だと思っていました。人によって表現の温度が違うだけだろう、と。

    現場でずっと引っかかっていたこと

    現場でずっと引っかかっていたこと

    でも、これが何年も、何社でも繰り返されるのを見ているうちに、だんだん別の疑いが頭をもたげてきました。もしかすると、これは個人差ではなく、”設問の構造”の問題ではないか、と。

    推奨度という質問は、よく考えると「他人にどう伝えるか」を聞いています。自分がどうするかではなく、他人に対して自分がどう振る舞うかを予測させている。

    そして日本では、目の前の相手を否定するのは、なかなか勇気が要ることです。施術してくれた先生を目の前にして、タブレットに「4」と入れるのは、けっこうな覚悟が必要です。だから、社交辞令が混じる。「薦めますよ」という言葉と、実際にもう一度足を運ぶという行為のあいだには、思いのほか距離がある。

    そう仮説を立てたところで、では実際どうなのかを確かめることにしました。

    ――――

    90を超える拠点のデータで、素朴な結論をいったん出してみる

    対象にしたのは、全国に90拠点超を展開するヘルスケアサービスチェーンです。有効回答 約4,100件のCX調査を、1月から7月までの半年間で売上成長率と突き合わせました。

    まず、従来型のNPS(推奨度)と売上成長率の相関を見ます。結果は”r = +0.186″。

    方向としてはプラスです。推奨度が高い拠点のほうが、多少は伸びている傾向はある。でも、統計的に有意とは言えない水準でした。つまり「この差は偶然でも説明がつきます」ということです。

    これは、私にとってかなり気まずい結果でした。15年間、この設問を軸に提案してきたわけですから。「NPSを上げれば業績が上がります」と言ってきた自分の足元が、自社のデータで揺らいだことになります。

    ここで素朴な結論に飛びつくなら、選択肢は二つあります。ひとつは「NPSは業績と関係ない」と切り捨てること。もうひとつは「このチェーンが特殊だっただけ」と例外扱いすることです。

    ついでに言えば、三つめの選択肢もあります。この結果を報告書に載せない、というやり方です。

    正直に書きますが、コンサルティングの世界では、”有意にならなかった分析”はたいてい表に出ません。きれいな相関が出た指標だけをスライドに載せ、出なかったものは静かに引き出しにしまう。悪意があるわけではなく、「クライアントの意思決定に役立たない情報だから」という理屈がつくからです。

    でも、これをやり続けると、自分たちが何を測れていないのかが永遠に分からなくなります。その時に関して言えば、この気まずい結果こそが、いちばん重要な手がかりでした。

    現場の違和感と、この分析結果は、同じ方向を指している。だとすれば、疑うべきはNPSそのものではなく、”何を聞いているか”のほうではないか。そう考え直しました。

    ――――

    設問を一行変えたら、景色が変わった

    そこで、同じ回答者・同じ期間・同じ売上データに対して、設問を変えて測り直しました。

    「薦めたいですか」ではなく、「またここに来たいですか」。

    私たちが社内では”再来意欲NPS”として、NRSと呼んでいる聞き方です。結果はこうなりました。

    相関係数 r = +0.320、p値 = 0.027。

     
    同じデータ・2つの設問で、結果が変わった

    同じデータ・2つの設問で、結果が変わった

    統計的に有意です。偶然では説明しにくい水準の相関が、はっきりと出ました。従来型との差は0.134。回帰の係数で換算すると、再来意欲NPSが10ポイント上がったとき、売上成長率は2.61ポイント改善する計算になります。

    念のため申し添えると、変えたのは設問の主語だけです。調査手法も、配布方法も、回収期間も、分析対象の拠点も同じ。システムを入れ替えたわけでも、新しい指標を発明したわけでもありません。アンケートの一行を書き換えただけで、業績との関係が見えるようになった。

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    なぜ、主語を変えるだけで結果が変わるのか

    理屈はシンプルだと思っています。

    推奨度は「他人の行動の予測」を聞く質問です。一方、再来意欲は「自分の行動の宣言」を聞く質問です。

    人は、他人のことについては案外いい加減に答えます。「まあ、誰かに薦めてもいいかな」くらいの気持ちで9をつけることは、そんなに難しくない。自分は何も差し出さなくていいからです。

    けれど、「また来ます」と答えるのは、少し話が違います。自分の時間と、お金と、移動の手間を差し出す前提の回答になる。だから、そこまで嘘をつけない。

    要するに、”回答のコストが違う”んです。コストの高い回答のほうが、行動の予測精度が高い。言われてみれば当たり前なのですが、私たちは長いあいだ、コストの低いほうを聞き続けていました。

    なぜ、主語を変えると結果が変わるのか

    なぜ、主語を変えると結果が変わるのか

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    でも、NPSが無意味だという話ではありません

    ここは誤解されたくないので、はっきり書いておきます。

    NPSはもともと、口コミや紹介が新規獲得を駆動する市場で威力を発揮した指標です。誰かに薦めた結果として新しい顧客が増える。その連鎖を捉えるには、たしかに優れた設計でした。ブランドが世の中でどう語られているかを知りたいなら、いまでも有効です。

    問題は、指標の優劣ではなく、”事業モデルとの適合”のほうにあります。

    日本の中堅中小サービス業の多くは、紹介よりも「もう一度来ていただくこと」で成り立っています。治療院も、スーパーも、飲食店も、サブスクリプションも、収益の大半は再訪から生まれる。だとすれば、測るべき対象も変わってくるはずです。

    紹介で伸びる事業なら、推奨度を聞けばいい。再訪で伸びる事業なら、再来意欲を聞くべきだった。私たちは、その切り分けをしないまま、同じ設問を全業種に配っていたわけです。

    紹介で伸びる事業と、再訪で伸びる事業

    紹介で伸びる事業と、再訪で伸びる事業

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    このデータだと、ほかにもこんなことが見えている

    今回は「設問の主語」という一点に絞りましたが、同じチェーンのデータからは、ほかにも気になる数字がいくつも出ています。今後の連載で扱う予定のものを、少しだけ並べておきます。

    新規客と既存客の断層。 同じ調査を新規と既存に分けて集計すると、新規顧客のNPSが+51.8、既存顧客が−3.0でした。その差、54.8ポイント。しかも同期間で売上が伸びた拠点は24、減った拠点は40。全体の63%が縮んでいました。「常連に支えられている」という感覚が、データではまったく裏付けられなかったケースです。

    拠点間の、とんでもない格差。 チェーン全体の平均値の裏で、最高+81.3、最低−50.0という開きがありました。差は131ポイント。同じ看板、同じマニュアル、同じ研修を受けているはずの拠点間で、これだけ違う。平均点は、現場のどこにも存在していませんでした。

    同じチェーンの中に走っていた、2つの断層

    同じチェーンの中に走っていた、2つの断層

     

    体験スコアと売上の、ねじれ。 空間9.02、接遇8.96、問診8.99、技術8.75。10点満点で見ればどれも高評価です。にもかかわらず売上が伸びていない拠点がある。NPSと年間売上で4象限に分けると、スコアも売上も高い「スター」が13拠点、両方低い「優先改善」が11拠点、そしてどちらか一方だけが高い拠点が33。スコアの高い店と、売れている店は、必ずしも同じではありませんでした。

    どれも派手な単発の数字ではありません。でも、これまで感覚で語られてきたことを、データの線で引き直せる。それがこの蓄積のいちばんの価値だと思っています。

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    では、現場では何が変わるのか

    指標を変えると、現場の会話が変わります。ここが、いちばん実感のあるところでした。

    推奨度で管理していたころ、店長やスタッフとの会話は「今月のスコアが下がりました。接遇を丁寧にしましょう」という抽象論になりがちでした。何をどう直せばスコアが戻るのかが、誰にも分からない。だから、結局は精神論に着地します。

    再来意欲に切り替えると、問いが具体的になります。「初めて来た方のうち、また来たいと答えたのは何割か」「その方は実際に戻ってきたか」「戻らなかった方は、どの設問で低い点をつけていたか」。ここまで分解できると、打ち手が個人の心がけではなく、オペレーションの設計に移ります。

    たとえば、次回予約の案内をいつ、誰が、どんな言葉でするか。初回の説明にどれくらい時間を使うか。二回目の来店時に、前回の内容をどう引き継ぐか。どれも、スコアの上下ではなく行動の設計です。

    数字を変えることの本当の意味は、点数が上がることではなく、”会議で交わされる問いが変わること”にあるのだと思います。抽象的な反省会が、具体的な設計会議になる。私たちが指標にこだわる理由は、そこにあります。

    指標を変えると、会議の“問い”が変わる

    指標を変えると、会議の“問い”が変わる

     

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    持ち帰り用チェックリスト

    最後に、明日から確認できる形にまとめておきます。

    まず、”アンケートの主語”を確認してください。「薦めたいですか」と聞いているなら、それは他人の行動を予測させる質問です。自社の収益が再訪から生まれているなら、「またご利用になりたいですか」に置き換えたほうが、業績と結びつく可能性があります。設問一行の修正で済むので、システム投資も予算承認も要りません。

    次に、”新規と既存を分けて”集計してください。全体平均には、常連の高評価と初回客の評価が混ざっています。混ざったままだと、どちらの問題も見えなくなります。私たちのデータでは、分けた瞬間に54.8ポイントの断層が現れました。

    そして、”平均値で拠点を評価していないか”を疑ってください。チェーン平均が良好でも、その裏で131ポイントの格差が走っていることがあります。平均は、しばしば二極を隠します。

    最後に、その数字を”実際の行動と突き合わせて”ください。「また来たい」と答えた人が、本当に来たのか。宣言と行動の一致率を見て、はじめて指標が経営判断に耐えるものになります。私たちがFRS™(First Repeat Score/初回来店客がどれだけ再訪したか)という独自指標を置いているのは、この検証結果が出発点になっています。

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    顧客ロイヤルティの成果は、いちばん目立つ「満足度の平均点」には写りません。それは、初めて来た人がもう一度扉を開けるかどうかという、地味な一回のなかにあります。

    もし今、満足度は高いのに業績が伸びないという状態にあるなら、悪いのは現場でも指標でもなく、聞き方かもしれません。

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    次回は、この記事で少しだけ触れた「新規のお客様ほど満足している」という話を、もう少し深く扱う予定です。同じチェーンのデータを新規客と既存客に分けたときに現れた、54.8ポイントの断層の話です。

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    自社で試してみたい方へ

    最後に、この記事の内容をそのまま自社で試せるものを二つ用意しました。営業資料ではなく、実際に使える形にしてあります。

    ① 再来意欲 設問テンプレート(無料・PDF) 本記事で使った再来意欲NPSの設問文を、業種別に整理したものです。宿泊・小売・飲食・BtoBサービスの4パターンを収録しています。いま回しているアンケートの末尾に一行足すだけで、翌月から比較可能なデータが取れます。設問文だけでなく、集計時にどこで新規と既存を分けるかの手順も添えました。 → ダウンロードはこちら(メールアドレスのみでお受け取りいただけます)

    ② CX-EX 現状診断(無料・オンライン30分) 「いま測っている指標が、自社の収益構造に合っているか」を一緒に確認する時間です。すでにアンケートを実施されている場合は、その設問票をお持ちいただければ、どこがずれているかをその場でお伝えします。実施されていない場合も、どこから測り始めるべきかの優先順位を整理します。売り込みの時間にはしませんので、その点はご安心ください。 → 日程調整はこちら

     

    現場でずっと引っかかっていたこと

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    私たちトータル・エンゲージメント・グループは、2010年から中堅・中小のサービス業を中心に、CX-EXの「見える化」と、その先の仕組み化を支援しています。「うちも、平均点ではなく本当の行動で測ってみたい」と思われた方は、お気軽にお声がけください。

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    調査概要 ヘルスケアサービスチェーン(全国60拠点超)/CX調査 有効回答 約4,100件/202*年1月〜202*年6月分析/売上比較期間202*年1月〜202*年2月。相関係数・p値は実測データの分析値、売上成長率の改善幅は回帰係数からの算出値です。分析対象は売上データを突き合わせられた拠点に限定しています。クライアント名は非開示とし、業種・規模のみ記載しています。

     

    SHAR

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    トータルエンゲージメントグループでは、これまで延べ100社以上15,000店舗以上のアパレル・小売流通・飲食宿泊から金融、行政などB2C事業からSaaSやメーカーのようなB2B事業など、様々な業種での支援実績がございます。
    CXにおける改善をツール提供だけでなく、全体の戦略をもとに策定・実施まで一気通貫でサポートいたします。まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください!

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